シードルの話
先週訪れた長野県さみず村で、りんごの生産者たちと、どうやってりんごで盛り上がれるかと話していた。りんごの品質をあげるのもいいけどジャムとかいろいろ加工品で設けるのもいいねと、でもあれ加工屋さんに二束三文だしなぁ、加工所つくるって言ってもなぁとか……。その会話の中でふと思い出したのが、フランス・ブルターニュ地方のことだった。
「シードルつくれば?」と僕が切り出した。ブルターニュはシードルたくさん飲む所で、実はクレープ発祥の地で、もともとのクレープはガレットといってソバ粉100%であの地方の主食で云々。青森から長野まで、りんご生産者の暮らす場所はどこもソバの産地だ。日本産のシードルで儲けたらいいじゃないかと話が盛り上がった。
少なくともパリの街を歩きながらクレープを食べているときに、ブルターニュの農村にひろがるソバ畑を思い浮かべる人はいないはずである……。
前々からブルターニュ地方には興味があった。フランスで唯一ケルト人の末裔が住む西北の半島。パリのカキといえばほとんどがここのブロン牡蠣で、オマール海老、ラングースト(イセエビ)の産地で、ブルトン語という独特の言語を持つ。玉村豊男さんの『パリのカフェをつくった人々』で描写されるこの地方は、フランスの辺境でも独自の文化が育まれた土地だ。
本には、ブルターニュの出稼ぎ人がパリに牡蠣をもたらし、モンパルナスなど主だった駅の周辺での商いをするうち、故郷の味のクレープを出す店、クレープリーを始めて次第に定着していった物語が綴られている。このほかフランス中南部の山麓オーベルニュの出稼ぎ人がカフェを作った話や、ドイツ国境の町アルザスの出稼ぎ人がブラッスリーなど、パリってフランスの田舎の文化が少しずつ洗練されて形作られていったんだなぁ、ということがわかる、上質で充実したルポルタージュエッセイだ。
本では残念シードルの話は出てこない。勘違いかなと他の本をあたるとピタリここはまさにシードルの産地であるばかりか、有名なゲランドの塩を産する場所でもあったのだ。
さみず村はかつて日本のりんご生産量の1%を産出するりんごの村だったと、代表の山下さんからは3回も聞かされてきた。今はそれほどでもないそうだが、村でいちばん景色のいい丘のいただきには、オシャレなレストラン(けっこう好き)サンクゼールが自家製ワイン用の葡萄を栽培している。ここはひとふんばり、さみずをシードルで盛り上げることができないかと夢想するのだが……
- 作者: 玉村豊男
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1997/08/01
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