梅田さんの作品

 ここのところの続きでweb進化論周辺のこと。ポジティブとかオプティミズムとか、善悪とかで様々に議論が続いているような今現在について。
 まず僕自身のこの本との出会いを含むその頃の経験から思い出すと、目ウロコのひと言。遅ればせながら手に取ったのが2006年の10月ごろ。恥ずかしながら買った店がbookoffだった。なぜ目ウロコだったのかというと、これで僕の逼塞感からすこしは解放されそうだと直感した。おカネが儲かるゾとかではなくて、自分の目指す何かに方法論を与えてくれたし、いや、ものの考え方を相対化する手助けをしてくれた方が大きかった。恥ずかしいが、表明しその意として感謝のキモチを伝えたい。ありがとう梅田さん。
 PCという道具を使うようになって、詳しい友人から少しずつその仕組みや可能性を知るにつけ、いつか自分の思考をPCになぞらえる整理の方法がクセになり、そのような整理ではまとまらない“何か”も含めて大切にしようと努力してきた経験から言うと、梅田さんがその世界を言い切ってくれたことで、納まりきらない何かもなんとなく見えてきた気がした。それはネットで網羅され、その恩恵を受ける人すべてに装備される標準的な情報以上のニュースソースのありかを大切にしなければならないということだった。
 それはモノ作りの世界で、標準以上の最先端が職人に支えられているとか、将棋上達の交通渋滞をブレイクスルーする次元の話に通ずる。集合の知というものが情報そのものの質を変えてしまう世界に、これからは個では太刀打ちできないというような、ざっくりとした捉え方には、現在の民主主義のありようが決して理想とはいえないのと同様のむなしさを予感したりはするが、そういう世界がやってくるなら来るで、よりいっそう、個の知というものを見つける努力もしてみたいと思った。
 この本では、(インターネットという)道具の使い方次第で世界が良くなると言い切っていた。簡単に言うが、世界が良くなりそうだということを、まっとうな根拠と経験に照らして体系建てて構造にまとめるのは、なかなか難しいことだ。僕はここまでを知ることが出来ただけでうれしい。ここから先を数十億分の1のロングテールな存在としてどう生かすかは僕の問題だ。
 梅田さんはwebのこれからの世界を善を前提に提示していることの理由を、苦心して(痛みも厭わず)重ねて伝えようとしているようだが、いささかムリしているのではないだろうか? web進化論で言い切っている内容それ自体が正解っ!以上おしまい続きはまたね。でいいのではないだろうか。自分の目の前に解釈次第で“磨けば光る道具”があり、これまでの道具では形に出来なかったことが(単なるロマンではなく)実現する可能性を知れば、それを善として伝えるのは当然のこと。むしろその基層をなす“善”そのものが何なのかをこそ、次に歩を進める階梯と捉えて、(作家としての)梅田さんの人力検索(?)から登場してくるだろう新しい人々や具体案に、一読者として期待したい。それは僕の糧として。
 この意味では皮肉にも、書籍という媒体は言い切って終わりという1対多の構造がとてもいい。双方向の言い合いで言わんとすることがぼやけるより、鮮烈。2006年の証言ということで、内容を訂正することなく、これからの若い世代に読み継がれるような、時代の開明、なのだと思う。
 それと、言葉が力を生むというが、梅田さんは言葉を、使う場所を限定し知悉し表現する力を持っている。その表現力で導き出される世界観が魅力に結ばれていて、決してすばらしいことだらけではないコミュニケーションという領域に、“はてな”という道具がこれからすばらしさを打ち込んでいくのではないか。“はてな”の若い人たちが持っているだろう力に、梅田さんの美しき表現力というか、世界観を伝えることができれば、おのずとそのようなプログラミングというか制度設計というかが、生み出されていくのではないだろうか。それこそが“知”というものが生き生きと育つ、意外な最短距離の方法論なのではないか。
 僕の場合、ものの考え方を相対化する手助けをしてくれた、と書いたのは、自分の考えを整理する道具としてwebを活用しようと考えたという、とても単純なものだった。そして使うにつけて自分の表現力の拙さを感じ、同時にコミュニケーションとは何だろうということを改めて考えるようになり、それらをどうやって組み立てていくかについての(他者に煩わされない)場を得たと同時に、どう育てていくかの入り口に立てた。その意味では梅田さんの様々な言説には触発され、刺激を受けたなと思う。
 これからは僕はwebでどうこうとか、云々するのは少し控えて、本来の“おいしい村”のことをもうすこし直接的に伝える作業に移っていきたい。食や農業のこと、書かなきゃ。それが僕のニュースソース。作り手と出会い、とても心配な地域や食文化のこと、考えていかなきゃならないのだった。とは言え『web人間論』買っちゃったんだけど…
 いやはやいったい何のblogじゃと女房に言われてる……