井上竹細工店…井上栄一さん

buonpaese2007-05-23

 入口ののれんをくぐって店に入ると、おお昔の記憶が蘇る。5年前とまったく同じレイアウト、所狭しと井上さん手作りのザルが並ぶ。そしてご本人も、同じ場所に座り、同じように竹細工のシゴトをしていた。
 久しぶりに来た。話しかけたいと思ったがこの日は土曜日で店内もけっこう込んでいて、なかなかタイミング合わなかったが、とにかく「こんにちわ、井上さんのザル、昔2枚買ってって、今も重宝してます」から会話が始まって、いろいろと聞くことができた。


 井上栄一さん。50歳前半?、高校卒業してしばらくはサラリーマンやってたが、家業が気に入っていたらしく20台後半でザル職人になったのだそうだ。シゴトは店内の作業場ひとつ。レジのヨコに胡坐をかいて、店番をしながらコツコツを竹を編んでいく仕事。運動はしないのと聞くと「いやあしないといけないんだけど、最近は忙しくてなかなか外に出られなくて」と、けっこう商売はうまくいってるのかな。


 今はこの根曲竹のザル作りをシゴトとして続けている人は9人だけ。この地域、昔はどこでも賃稼ぎの冬場の仕事としてどこのうちでもザル編みをしていたことから、覚えのあるおじいちゃんたちが健在で、それでも含めて29人しかいないそうだ。それでもここのところ若手が(30代)3人いてがんばっているとのことで、手作りの良さが社会てきにも認められて始めたということだろうか。
 おにぎり入れに頃合いな籠編みの品があったので聞くと「それは根曲がりじゃないんですよね。根曲がりだといいのが作れるんだけど籠に編むのけっこう難しくてね。見てみる?」と座っている脇から同じ大きさのものを出し見せてくれた。自分用に作ったものだそうで、手間がかかりすぎて、商売用には作れないのだそうだ。手触りよし、弾力がある。裏に名前が彫ってあった。井上栄一さん。自分のうちで仕事をし、手作りの竹編みの弁当箱で弁当を食べるんだ。
 戸隠は参道に沿ってお参りの宿坊がたくさん並ぶ。栄一さんの店もその並びにある。有名な観光地だから春から秋はお客さんも多いだろう。シーズン中1日どのぐらいの売り上げになるかはわからないが、手間がかかって決して安くはない品物だから、竹細工という商売そのものが成り立つかどうか、不安もあると思う。でも栄一さんは多分、毎日淡々とザルを編む暮らしそのものを愛しているのだ。冬など客もこないだろうし、しんと静まり返った店、雪に閉ざされた山里で、ストーブのやかんの音を聞きながらシゴトをする栄一さんの姿が目に浮かんだ。
 写真を撮らせてもらった。2枚のザルを買って、また来ますねと店を出た。わかるかなぁ、写真の左2枚が今回買ったもの。後ろが5年前。色つやの違い。ご満悦です。