春の林檎畑・さみず

たんぽぽ

 長野から国道を新潟方面に小一時間ほども走り、滋賀高原方面に別れてゆく観光バスを右に見やり、ちょっとした坂を上った途中に、牟礼という駅がある。ここを右折して、すぐだ。それまでの何のことはない風景が一転し、りんごの楽園となって目の前に広がる。
 旧三水村。西に戸隠、飯綱、黒姫、妙高、斑尾と連なる北信五山を、東に奥志賀を見渡す標高600メートルの高原地帯だ。青い空。新緑の緑と山々に残雪、すずしい風。こんないい季節に訪れた僕は幸せ者だ。農業の村で、観光地はないから、普通の人が訪れることは少ないだろう。一帯は林檎林檎林檎。訪れた5月は林檎の花盛り。ここで農業を営むYさんに、シゴトの打ち合わせでお伺いしたのだ。

 Yさん宅に辿り着くまでの風景。花は林檎だけではなく、山桜、桃、それに道端に一面のタンポポ。農家の庭々にはそれぞれに鉢植えの花が飾られ、これは花見もいいなぁと思うのは僕だけで、、村は花盛りのこの季節から、忙しさに活気を帯びてくる。これから収穫の秋まで、摘花、摘果の作業が始まる。
 それだけではない。田に水が行き渡り、人々は田起こし、代掻きをする。畦の補修や、萌え出した農道に、おそらく今年最初の草刈機を入れる。その気ぜわしさもすがすがしく「こんにちわ、お久しぶり」と挨拶を交わしたYさんの表情も爽快。明るい日差しの下で、泥の沁みたTシャツも、汗だらけの笑顔も気持ちがいい。

 この忙しいさなかの打ち合わせだから、まず昼間は摘花のお手伝い。Yさんのパートナー、Kさんに教えられ、慣れない手つきで林檎の花を摘み、花を摘み、花を摘んで、わずか3時間ほどで樹2本分に満たなかったと思うお手伝いをした。生産者はこれを毎日、何百本もこなす。放っておけば大きなおいしい林檎にならない。薬剤もあるそうだが使わない。量ではなく質を求め、安全性も大切にするとなると、手を抜けない作業だ。ああ疲れた。