森枝さんごめんなさい

 今年正月あたりに呼んだ本だったが、僕が外国の食のことなどに、改めて興味を抱いたきっかけが『知っておきたい食の世界史』(宮崎正勝)だった。この内容についてはまた別の機会に書きたいが、今日はアンコウの話。この前書いた続きです。
 アンコウさばき終えて、もう二度とやるもんか!と息巻いたその舌の根も乾かぬ2、3日後、BOOKOFF で買い置いた『ヨーロッパ民族食図鑑』(森枝卓士)に、とてもそそられるアンコウ料理が、実にそっけなく載っていた。
 この森枝さんという人は、面白くはあるが、いまいち食い足りないところがありり。「食」をテーマに文章を書く人である割には、「僕はシロートだから」というようなスタンスが見え隠れする。例えば石毛直道との対談で構成される『考える胃袋』でも、石毛さんのウンチクの深さ、当意即妙さには感心させられるのだが、共著である割に森枝さんは聞き手一方。そういう本なのだとは思うが、聞き手としても質問の内容が浅い。ので石毛さんとの格の違いのみ目立ってしまった。
知っておきたい「食」の世界史 (角川ソフィア文庫)ヨーロッパ 民族食図鑑 (ちくま文庫)考える胃袋 ―食文化探検紀行 (集英社新書)パリのカフェをつくった人々 (中公文庫)
『ヨーロッパ民族食図鑑』もそうで、取材先のバスク、カタルニア、シチリアなどすべて、しっかりとその地の歴史を踏まえてる感じがしない。話としては面白いけど、ホントかなぁなんて、読む側が不安を覚える感じ。椎名誠ふうのノリなのか、シロートだからこそ目線がスルドイんだゾ路線も、ないではないと思うけど、シロートらしい鋭さも見当たらなかった。知らん振りして書いている割に、ギリギリ史実に沿っているから、ある種そういうシロートふうのキャラクターを自認しているのか。まだよくはわからない。

 というのも、これ読む前に、玉村豊男さんの『パリのカフェをつくった人々』を読んだからかもしれない。玉村さんの場合は読んでホント勉強になったし、印象とカンから入っているのに、足を使って調べつくしていたので驚かされた。これも別の機会に紹介したいけれど、とにかく森枝さんの取材先だったブルターニュが玉村さんと同じだったものだから、落差感じちゃったのが大きな原因だったとは思う。

 ところがその巻末に、ハンパな内容で申し訳なかったのかどうかは知らないが、森枝さんの手になるレシピ集があって、そこにアンコウの料理が出ていたという訳。コキおろした後で言うのも何だが、これがとてもよかった。ぶっきらぼうに思えるほどシンプルに、バスクふうのアンコウのオーブン焼きのやり方が書いてあった。なんでそそられたのなかなぁ。
 たぶんホントにウマイ料理法だったから。別の本だったと思うのだが、森枝さん、自分でしっかり料理する人で、身近な食材をけっこうぱぱっとこなしてしまう人らしい。場なれしてる、場数踏んでるというか、全体に(文章もそうだが)カジュアルで、けっこういい人と思える。この本で、メインのところハンパ(というか実際別のテレビとかの取材の片手間に書いたらしい)な分レシピはオレの実感で書いちゃうもんね、って感じで、好感が持てた。対比で申し訳ないが、この逆、玉村さんという人物は好きになれるかはわからないので、このアンコウレシピのおかげで、森枝さん評は高まったのだった。島村菜津さんに聞いたらご近所付き合いらしい……

 このレシピは、やってみたらうまかった。家族一同「もう一回やろうね」と大満足!……って、どんな料理だかかけなかったじゃん! 今日はここまで。おそまつ。