あおもり犬

青森から帰ってきた。時間が少しだけできたので思い立って奈良美智を見に行く。
初めて眼前に見たあおもり犬……

それは大きく設えられた方形の窪みに縮こまっているようにみえた。
その大きすぎる頭蓋、のっぺり卵細胞のようにフラットな「こうべ」を持ち上げれば、高い高いつがるの春、青空の下地平の360度が広がるが、お前は大きく設えられた方形の窪みに縮こまっていた。下半身は太古の土中に埋もれ、前肢わずがに浮遊、内臓のない胴体、真っ白な内部。その内部を見つめ続けよ。その外部を空白として貪れ。
出会うその地点から古代が蘇る。
世界は決して……


ぱっと見、世界は完膚なきまでに分断されているようだが、その氷のような分断と個々の想念潜勢の位相が世界で意識に上っていると聞いた。氷の分断が緻密なほどにその意識は最終局の覚醒に近づくとアジられた。情動の必然で世界がそう転化する止めようのない永久運動が加速する。その地点があると説く父性は何か。翻って歴史の必然を無効にする母性って何か?眠れるミューズ、シャガールの恋人たち、いやムンクの叫び、無音から絞り出される見えないこだま……。さしあたりこの10年の固定化されたかのように見える情況は何か?人を眠らせない負圧はどこから来るの?
walking alone---