F1の自家採種…岩崎政利さん

buonpaese2007-06-24

 種苗会社はふつう、交配1世代目には親の良い形質ばかりが現れる雑種強勢という性質を利用して販売用の種を生産しているが、これがいわゆるF1品種(交配種)。しかしそのF1から生まれた第2世代の種は形質がばらつき、栽培用には使えないのが常識。そこで生産者は種を買い続けることになるのだが、岩崎さんはそのF1の自家採取にも挑戦している。
■時間のかかるF1品種の固定
 これまで在来種、固定種をずっと選抜してきたんですけれども、今の野菜のすべてが、在来の固定種でうまくいくかと考えた時に、非常に限界があって、たとえば夏のきゅうり、トマト、キャベツ、あるいはブロッコリー、カリフラワー、白菜、そういう主要野菜が、なかなかいい固定種がないんですよね。これは農家が新しく育成をするしかないと思うので、いろんな野菜のF1種を固定する方法を、育種家に技術を教えてもらったりして、試行錯誤で進めているのです。
 僕の経験からしますと、やはりF1種からだと、それは長い年数というのが必要になってきます。しかしこれをクリアしなければ、これからの自家採種の拡大はありえないと思うので、やはり定期的に、F1の固定の仕方、育成の仕方、選抜の仕方など、育種家の方と研修会をしながら、地道に調べていかなければいけないんじゃないかという感じがしています。
■種を農民につなげていく
 たとえば青首大根の固定種がなかなかないということで、F1から選抜を続けて今年でF6、つまり6年たったのを持ってるんですが、まだ少しばらけてますけれども、だいたい5年くらいで揃ってきまして、来年あたりは生産者にも分けてあげられるようになってきています。選抜して3年目では、まだとても自分でも作る勇気がないくらいばらけますね。ブロッコリーなんかはF6になってもまだまだ。いつになったら固定するのかな、というものもあります。そういうふうに、非常に時間がかかるということです。
 しかし、やはりブロッコリーは自分で作りたいということで、いまだにF6でも、迷いながら選抜を続けているんです。その逆ズッキーニは早いものでF3でだいたい揃ってきて、F3かF4で人にあげられるようになってきたりします。そういうたくさんのF1種を固定して、もし固定すれば、いいものであれば皆さんに交換に使ってもらえればな、ということでやっているんです。
 やはり誰かが損をして、10年なり、固定してくれないと、その種が農民につながっていかない。誰かがしなければいけない道だと思うのです。やはりF1種の固定というのはこれからの課題だと思うんですよね。
■F1とは何か
 以下は在来種や固定種にこだわって種を研究し販売している、埼玉県飯能市の野口種苗研究所の野口勲さんから聞いた、種苗会社がどのようにF1品種を作るかという話。
 まず、そもそもの初めからの、天然のF1などあるはずもなく、どんなF1でもその元は固定種だということ。すなわちいずれかの土地で、その土地ごとに代々農家によって受け継がれてきた、人間共通の財産だということ。
 種苗会社はこの固定種から特定の形質が顕著に現れるまで選抜を繰り返します。すると自家不和合性という、同じ系統の中では和合(結実)しない性質が固定されてくる。岩崎さんは講演で、人参の母本選抜を徹底的に繰り返して種が取れなくなった経験(前号「自家採種を進める」参照)を話されたが、まさにこの作業を行なって、一方は耐病性が高く、他方は味がよいといった品種を2種用意するのだ。
 是非はともかく、自家では結実しない、すなわち生命力のない種を掛け合わせて結実した第一世代の種、それが世に言うF1品種、というお話しだった。
■次世代への投資
 さて、岩崎さんが進めている自家採種の取り組みは、F1品種においても一貫している気がする。それは「次世代性」とでもいえるだろうか。この連載の最初、岩崎さんは「在来種は生命力が強い」と言っておられるが、この「生命力」を、「種を次世代に継いでゆく力」と捉えたとき、岩崎さんはF1品種の中にすら、その潜在的な、遺伝的な形質としての生命力を見出そうとしているのではないかと思うのだ。
 種の潜在能力が、人工的な手段ではない、本来の永続的な方法でしっかりと現れ、それが次世代に受け継がれてゆく、その折衷点を模索する。これが岩崎さんの自家採種の取り組み。岩崎さんのアプローチはF1品種において、より多くの時間がかかるが、農業全体の「次世代」を見据えた岩崎さんの投資なのだ、と捉えることができはしないだろうか。